八竜天神社(高松八郎兵衛と久留米藩大一揆)

八竜天神社 義民の史跡
くじ引きで刑死した大庄屋を祀る祠
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宝暦4年(1754)、久留米藩の人別銀賦課に端を発して、数万人規模の百姓が参加する全藩一揆「久留米藩大一揆」が勃発します。藩は人別銀を撤回するものの、責任追及のため300人以上を捕縛、御原郡大庄屋・高松八郎兵衛はじめ37人を処刑しました。八郎兵衛を祀る「八竜天神社」ほか、一帯にはさまざまな一揆の遺跡が残されています。

義民伝承の内容と背景

財政難にあった久留米藩では、宝暦4年(1754)2月、領内の農・工・商8歳以上の男女1人につき銀札6匁などとする人別銀を賦課することを唐突に決定しました。

3月7日、久留米城下にある徳雲寺の隠居・虎堂が人別銀反対の願書を藩主に提出して早くも遠慮(謹慎)を命じられていますが、領内百姓にも次第に不穏な動きが出始めました。

筑後国竹野郡では3月20日に野中村(今の久留米市)百姓・久兵衛らを中心に多数の百姓が印若野に集まり、やがて耳納連山寄りの石垣神社に移りました。生葉郡では西溝尻村(今のうきは市)百姓の古賀勘右衛門らが中心となり、竹野郡の百姓と合流して若宮八幡宮の森を埋め尽くしました。

百姓たちは久留米城下を目指して筑後川の八幡河原に集結し、ここが手狭になるとさらに小江河原へと移動しており、『米府年表』によれば総勢10万人余りにもなりました。この間、各地で大庄屋宅や商家などが打ちこわしに遭い、百姓中からは人別銀免除を求める訴状が一斉に出されました。

3月下旬には筆頭家老の有馬石見守が小江河原や八幡河原に出張し、百姓の要求を「何れも願いの通り」と認める書付を渡したことから、屯集していた百姓たちも居村に続々と引き揚げてゆき、これ以降も各地で村役人交代などを求める小規模な動きはあったものの、一連の騒動は5月末までには収束しました。

しかし、江戸にいた藩主・有馬頼徸(よりゆき)は一揆の報に激怒して厳罰を命じたため、藩は態度を一変させて一揆指導者の逮捕と詮議を開始し、7月下旬には300人ほどが牢屋に押し込められたといいます。

そして8月27日に二ツ橋刑場において18人が、10月27日に19人が死罪となったほか、追放76人、過料47人のあわせて160人という大量の処罰者を出しました。

死罪とされた中には平百姓のほかにも大庄屋の高松八郎兵衛がおり、これは大庄屋のうち1人を死刑にする藩の方針により、「籤取り」で引き負けた八郎兵衛が犠牲になったものといわれています。もっとも公式には「組中より追々銀米取り込み、私欲紛れ無く候」と大庄屋に不正蓄財があったことにされており、高松家先祖代々の墓地にも役人が墓石をなぎ倒したらしき跡が見られます。

一方で城島組大庄屋だった大石勘次(大石久敬)は、久留米藩の理不尽な処分に抗して詮議中に脱藩し、諸国を流浪した末、高崎藩に召し抱えられて郡奉行まで昇進するとともに、江戸時代の農政書の傑作といわれる『地方凡例録』を著しました。

いずれにしても、久留米藩は百姓側の刑死者を回避した「享保の一揆」の例とは打って変わって、幕府の譴責を恐れ徹底して一揆の責任を大庄屋以下の人々に押し付けようとしていたことは疑う余地がありません。

罪人となった八郎兵衛の墓は先祖代々の墓地にはありませんが、彼の後を受けて庄屋となった樋口氏により、文化14年(1817)に「八竜天神社」に祀られました。

ほかにも各地で犠牲者の墓が密かに営まれたとみられており、現在までに久留米藩大一揆の発頭人とされた野中村九兵衛や生葉郡の頭取・古賀勘右衛門らの墓が発見されています。また、久留米市津福本町にあった久留米藩の二ツ橋処刑場跡にも、刑死者を供養するための六地蔵が祀られています。

参考文献

『久留米市史』第2巻(久留米市 久留米市、1982年)
『小郡市史』第2巻 通史編(小郡市史編集委員会編 小郡市、2003年)
『九州と一揆』(藤野保編 国書刊行会、1985年)
『九州横断自動車道関係埋蔵文化財調査報告』16(小田和利編 福岡県教育委員会、1990年)

八竜天神社の地図とアクセス

名称

八竜天神社

場所

福岡県小郡市大字井上字東山後地内

備考

大分自動車道「筑後⼩郡インターチェンジ」から車で3分、又は甘木鉄道「松崎駅」から徒歩10分。大分自動車道の北側側道沿いの田圃の中に碑がある。

関連する他の史跡の写真

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